最高裁判所第二小法廷 昭和44年(オ)555号 判決 1969年10月31日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人鹿島重夫の上告理由第一について。
原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)が、その理由中において、訴外堀勝則が第二種原動機付自転車を運転して進行中訴外山下進の運転するバイクと衝突したと表現している部分は、原判文全体を通読すれば、右堀勝則が第二種原動機付自転車を運転して進行中同自転車の後部ナンバープレート附近に右山下進の運転するバイクが接触ないし衝突したとする趣旨であることが明らかである。したがつて、原判決に所論の違法はなく、論旨は、原判決を正解しないでこれを非難するものにすぎず、採用することができない。
同第二の一について。
原審の適法に確定した原判示の事実関係のもとにおいて、訴外堀勝則の運転する第二種原動機付自転車と訴外山下進の運転するバイクとの接触ないし衝突による右山下進の本件事故死は、右堀勝則の過失にもとづくものであつた、とした原審の認定判断は、正当として是認することができる。なお、原審は、民法七一五条を根拠として、右山下進の本件事故死に関する上告会社の損害賠償責任を肯定したものであつて、自動車損害賠償保障法三条を根拠として、これを肯定したものでないことは、原判文に徴して、明らかである。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原判決を正解せず、また、原審の認定にそわない事実関係を前提として、原判決を非難するか、あるいは、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。
同第二の二について。
原審の適法に確定した原判示の事実関係のもとにおいて、訴外山下進の本件事故死は、訴外堀勝則が上告会社の事業を執行するにつき惹起したものである、とした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。
同第三について。
不法行為による損害賠償額の算定につき被害者の過失をいかに斟酌するかは、原則として、事実審裁判所の自由裁量に属するところであり、原審の確定した事実関係のもとにおいて、本件事故の発生に関する訴外堀勝則と訴外山下進との間の過失の割合は五対五であつた、とした原審の判断は、正当として是認することができる。原判決に所論の違法はなく、論旨は、原審の認定にそわない事実関係を付加したうえ、独自の見解を主張するものにすぎず、採用することができない。
同第四について。
不法行為にもとづく慰藉料の請求権は、被害者本人が慰藉料を請求する旨の意思表示をしなくても、当然に発生し、これを放棄し、免除する等の特別の事情のないかぎり、その被害者の相続人においてこれを相続することができるものであることは、当裁判所の判例(昭和三八年(オ)第一四〇八号同四二年一一月一日大法廷判決・民集二一巻九号二二四九頁以下参照。)とするところであつて、これと同旨の見解に立つ原審の判断は、正当である。また、不法行為にもとづく慰藉料の金額をいかに算定するかは、原則として、事実審裁判所の自由裁量に属するところであり、原判示の諸般の事情を考慮したうえ、訴外山下進本人の慰藉料の金額を金六〇万円と算定した原審の判断に、所論の違法は認められたい。論旨は、理由がなく、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官色川幸太郎の反対意見があるほか、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。
裁判官色川幸太郎の反対意見は、次のとおりである。
上告代理人鹿島重夫の上告理由第四について、多数意見は、「不法行為にもとづく慰藉料の請求権は、被害者本人が慰藉料を請求する旨の意思表示をしなくても、当然に発生し、これを放棄し、免除する等の特別の事情のないかぎり、その被害者の相続人においてこれを相続することができる」として、これと同旨の原判決を支持しているが、私は、この見解に賛成することができず、他人の不法行為によつて死亡した者については、死亡したこと自体を原因とする慰藉料請求権の取得は認められないものと解する。そして、その理由の詳細は、当裁判所昭和三八年(オ)第一四〇八号同四二年一一月一日大法廷判決における私の反対意見(民集二一巻九号二二六二頁以下参照。)と同一であるから、それをここに引用する。したがつて、訴外山下進には相続の対象となるべき原判示の慰藉料請求権はなかつたというべきであるから、原判決中、右請求権があることを前提として被上告人らの本訴請求を認容した部分は、破棄を免れず、右部分の請求は棄却されるべきであると考える。
(裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 色川幸太郎 裁判官 村上朝一)